コンテストお題
鉄道ダンシ

鉄道ダンシ
著者:鉄道ダンシ製作委員会
著者:衣南かのん
イラスト:カズキヨネ
カバー画:嘉志高久


■登場キャラクター

▼恋し浜レン(こいしはま れん)▼
小さいころからやんちゃ坊主で、地域の同世代ではリーダー的な存在。バスケット一色だった高校生活も終わりをつげ、ホタテ漁師になる。しかし、3.11 は養殖作業中の船の上で迎える。船が酷く軋むほどの今まで経験したことがないような揺れを船上でも感じ、家族と仲間を思い、船を港へ向ける。生業の再生とともに、三陸全体の復興の一躍を担いたいと考え、復興のシンボル的な存在となっていた三陸鉄道への入社を希望する。


■お題原稿あらすじ

3・11の大地震で大きな打撃を受けることになってしまった三陸鉄道。鉄道だけでなく三陸全体が大変な状況にある中、将来の三陸鉄道と三陸の復興の力になりたいと、2012年4月1日に2人の社員が入社した。実家が漁師で釣りが趣味の「恋し浜レン」と実家が酪農家で乳製品やワインが好きな「田野畑ユウ」だ。それぞれ恋し浜駅と田野畑駅で駅務や営業、三陸復興にかかわる業務を担当することから三陸鉄道の職員としての業務を開始する。忙しい日々を過ごす2人だが、ある日「恋ヶ窪ジュン」が三陸鉄道に研修に来ることになり……。

  • 今回は「朗読」に重点を置いたコンテストになりますので原稿は性別にかかわらず全てお読みください。
  • キャスト2名以上でのコラボ朗読をご希望の場合、投稿の際にそちらを明記の上投稿してください。

  • ■以下、お題原稿

    レンが三陸鉄道に就職して、四年目になる。
    勤務する部署は、旅客サービス部。
    三陸鉄道の列車を活用したイベントの企画や、駅に来るお客様のサポートを担当している。
    最初は自分が生まれ育った恋し浜駅での勤務だったが、この春から南リアス線の始発駅でもある盛駅(さかりえき)の勤務となった。
    今日はイベント列車の確認のために盛駅(さかりえき)から列車に同乗して釜石駅に来ていたのだったが……
    次の列車を待つ休憩の間、ちょっと市街を見て回っている間にうっかりギリギリの時間になってしまった、というわけで。
    (あーもー、やっちまったなぁ。ついついのんびりしちゃうんだよなぁ、釜石って)
    反省とともに気合いを入れて一足飛ばしに階段を駆け上がると一気に視界が開ける。
    ぱぁっと広がる明るい景色の中に、一両編成の小さな車両が止まっていた。
    今にも発車しようというその車両の隣には、彼と同じ制服を着た中年の男性が呆れたような笑顔を浮かべて立っている。
    「ほーら、ギリギリだぞー、レン。鉄道マンは時間に正確じゃなきゃいけないって、いつも言っているだろ!」
    「でっすよねー!はい、その通りです!申し訳ありません!」
    さすがのレンも少々ばつが悪い思いで素直に頭を下げる。
    いいから乗れ、と促されて列車に乗り込もうとした寸前……視界に入ってきた人影に、一瞬、意識を奪われた。腰まで届く長い髪にすっと伸びた背筋の女性。
    表情こそ見えないけれど、光の中に溶けてしまいそうに色の白いその横顔に記憶の片隅を突かれる。
    「あの人……」
    「あぁ、さっきの列車で降りてたお客さんだな。しばらくあそこにいるから、車両でも見ているんじゃないのか?」
    「車両を?」
    確かに三陸鉄道が舞台になったテレビドラマが放送されて以来、このワンマン列車を見に訪れる観光客はブームが去っても少なからずいる。
    ただ、南にいる人間としては少し残念なことに、そのほとんどはドラマの舞台になった北リアス線の方に行ってしまうのだが。とはいえ、彼女はそういった観光目当ての人々とはどこか違うような気がした。
    そうじゃなくて、もっと……
    と、考えていたところで、どん、と背中を押された。
    「ほら、見とれてないで早く乗れ!置いてってもいいならこのまま発車するぞ!」
    「わー、乗る乗る、乗ります!これ逃したら二時間半後!」
    慌てて車両に乗り込んだレンが再び窓の外を見た時には、もう、そこに彼女の姿はなかった。
    すうっ、と胸のあたりを通りすぎていくようなもどかしい感覚は残っていたが、それも発車のベルにかき消されてしまう。